Photo 365 MAGAZINE & DIGITAL PHOTO LABOS
2004.08.16
vol. 9
写真を仕事にしたい人、写真家になりたい人はもちろん、
写真に興味のある人なら誰でも楽しめるメールマガジンです。
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こんにちは。
雷鳥社「Photo365MAGAZINE&DIGITAL PHOTO LABO」エディターのオオネダです。
写真を撮ること、観ることが好きな人にお届けしているこのメールマガジン。
第一線で活躍する写真家のインタビュー、写真の撮り方のワンポイントレッスンという二つの柱でお届けしています。
先週、先々週と、写真家・坂田栄一郎さんにお話をうかがっていますが、予想をはるかに上回る反響の大きさに驚いています。今週も、ワクワクするような坂田さんのエピソードをお届けします。

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私が写真を撮るワケ
自然と人間の共生を写真で伝えたい。写真家・坂田栄一郎インタビューVol.3
相手のために、そして自分自身の成長のために写真に取り組んできた坂田栄一郎さん。「私が写真を撮る理由(わけ)」第2回目までは、写真との出会い、坂田さんのルーツについてうかがってきた。
第3回目では、独立し帰国後の坂田さんのカメラマンとしての活動、そして、転機になったあるできごとについて語っていただいた。
■ Profile ■
坂田栄一郎(さかたえいいちろう)
1941年東京生まれ。1965年、日本大学芸術学部写真学科卒業後、1966年に渡米。ニューヨークで写真家リチャード・アベドンに師事。1970年、個展『Just Wait』でデビュー。1971年に帰国後、CM、雑誌などを中心に活躍。一方で、週刊誌『AERA』の表紙は、1988年創刊以来担当。撮影した人数は850人を超える。また、1993年には世界でもっとも有名な写真の祭典である「アルル国際写真フェスティバル」に招待され、「アルル名誉市民賞」を受賞。写真集に、『注文のおおい写真館』(流行通信社・1985年)、『Talking Faces』(六耀社・1990年)、『amaranth』(1995年・朝日新聞社)がある。
(C)坂田栄一郎
「PIERCING THE SKY―天を射る」坂田栄一郎展
静謐なモノクロの「人物」と色鮮やかな「自然」が対峙するように表現した、未発表作品約100点を展示。
会期:2004年9月4日〜10月11日
お問い合わせ:東京都写真美術館(TEL:03-3280-0099)
詳細はこちら

「PIERCING THE SKY―天を射る」
7年の歳月をかけて撮りおろされた人と自然の姿に、太古から交わし合ってきた生命の息吹が見える。悲劇的な世界を救う力はどこにあるのか、現代社会で我々に問われていることは何か?警鐘と深い人間愛に満ちた一冊。デザイン・井上嗣也、寄稿文・丸山健二といった豪華ラインナップ。
求龍堂(9月4日の東京都写真美術館の展覧会に合わせ刊行)/価格未定

※1 アービング・ペン(Irving PENN)
1917年ニュージャージー生まれ。画家を目指し1942年にメキシコに渡り、翌年帰国、『ヴォーグ』誌で働くようになる。表紙デザインのアイデアを提案するが、当時の写真家には通らず、ペン自身が撮影するようになる。ファッション写真において、自然光を強調するために人工光線を使うテクニックをいち早く取り入れるなど、当時としては斬新な作品づくりをする。また、ファッションやポートレートと同じアプローチで煙草の吸い殻や、ゴミを巨大なプラチナプリントで制作するなど、アプローチの仕方は現代美術に通じるものがある。

※2 石岡瑛子(いしおかえいこ)
東京都生まれ。東京藝術大学美術学部卒。1961年に資生堂に入社。女性で初めてグラフィックデザイナーにとってプロへの登龍門である「日宣美」の大賞を受賞。“ヤギを抱いた男”と“ドーベルマンを抱いた女”をツイン・ポスターにしたパルコのポスターは、それまでの画一的な広告表現に変化をもたらした。優しいエレガントな男性像と強くアグレッシヴな女性像は、女性優位の時代の到来を告げるものでもあった。1980年、ニューヨークに渡り、グラフィックデザイナー、アートディレクター、映画・演劇・オペラなどのセットおよびコスチュームデザイナー、ミュージックビデオのディレクターとして現在も活動中。

※3 注文のおおい写真館
流行通信(1985/12)/6‚090円(税込み)

日本の時代が来る。その言葉を信じて帰国した
アベドンのもとで4年の歳月を過ごした後、1970年に坂田さんは独立を果たす。同年、帰国してニコンサロンで個展「Just Wait」を開催した。

「篠山さんがニューヨークに来たときに僕の写真を見て『面白いから日本で展覧会をやらないか』と言って、僕の写真をニコンサロンの審査にかけてくれたの。それが審査に通って、日本での個展開催に至ったわけ。ポルノショップやゲームセンターが乱立する、当時は非常に危険なエリアだった「タイムズスクエア」で、娼婦や刺青男などをハッセッセルにストロボ一発付けて撮ったその写真はセンセーショナルを巻き起こしたの」

独立して日本に帰ってきたものの、日本にいてもどうも落ち着かない、しっくりこない、そんな感覚を覚えた坂田さんは再びニューヨークへ渡った。そしてその一年の間にアービング・ペン(※1)やビア・フィルターやいろいろな人と会った。

「ペンに『何をやりたいのか』と聞かれて、僕は『自分の作品を撮りたい』って答えた。そうしたら『これからは日本の時代がくるから、自分の写真を創っていくなら絶対に日本の方がいい』って言われたの」

「アベドンのところにいると、とにかく壮々たるメンバーが出入りしていたから、そこで自分も何か世の中、世界の動きを感じるわけ。そういうものをキャッチしていかないといけないんだよね。ペンが言ったように、時代の動きというものを敏感に捉えていかないといけない。あの時ペンが言ってくれなかったら、僕は日本にいなかったかもしれないよね」

「とにかく僕は本当に出会いに恵まれているんだ。僕は出会いを一番大切にしているからね」

これまでの坂田さんもそうだったように、何かの節目に人との出会いがある。そしてその出会いが次の方向を指し示してくれたり、導いてくれたりする。何かを模索しつつも常にアンテナを張っていれば、その時その人に必要な出会いが向こうからやって来るのかもしれない。
クリエイティブなものを創りたい
ペンの助言を受けて再び日本に帰国した坂田さんはさっそく石岡瑛子さん(※2)に電話をかけた。石岡さんとの出会いは、「Just Wait」の写真展の時。

「僕の写真に何か衝撃を受けてくれたのか、『もし日本に帰ってくることがあったら私に連絡ちょうだい』って言ってくれたの。その言葉を頼りに帰国後、石岡さんに電話をしたら、ビックジョブが舞い込んできたんだよ」

「それを機にコマーシャルをやるようになったんだよね。今の広告と全然違って、当時はアイディアもみんなで持ちよって、みんなで考えた。クリエイティブなものを創ろう! という気持ちが強かった。そういうクリエイティブな仕事が面白くてね」

それからはキャンペーンの仕事などでニューヨークやロスにも行って、その都度作品が話題になっていった。

「外国に行くと嬉しくてしょうがないの。日本に帰ってくると居心地が悪いんだよね。今でもそう。だから今も3ヶ月に1回は必ず外国に行くようにしている。そうすると解き放たれた気持ちになって、また新鮮な気持ちになるよね。今でもニューヨークに行きたい気持ちはあるよ。やっぱりニューヨークは大人の街だし、面白いし、刺激がある」

しかし、日本とニューヨークで活動をしていながらも、自分がこれから作家として生きていくためにはどうしたらいいかを模索していたという。
規制概念を取り払って。『注文のおおい写真館』
「もともとは報道写真を目指していたわけだからね。目指すものがないと、ただ漠然と写真をやっているだけでは何か満たされない気持ちがあった。その時、その時はクリエイティビティーがあるものを創っていたから楽しかったけど、それだけでは飽き足りなくなってきて何か自分の表現をしていきたかった。その結果あの『注文のおおい写真館』(※3)ができたんだ」

転機となったのは『スタジオボイス』の表紙写真だった。坂田さんは1年間の『スタジオボイス』の仕事を終えると、その流れに乗って作品を撮り始めた。そして出来たのが『注文のおおい写真館』だった。

『注文のおおい写真館』は村上春樹・美空ひばり・北野たけしなど時代を象徴するメンバーが並ぶ写真集で、オブジェを使っての斬新な発想で人物を写し出すなど、新しいスタイルのポートレートだった。その衝撃的な写真は当時のポートレート写真にセンセーショナルを巻き起こした。

「それまでのポートレートの規制概念を取り払って、その人の人物像を違う視点で見て表現したかったんだよね。ニューヨークにいた時に現代美術が好きになって、いろんなアーティストの作品を見ていたものがずっと頭の中に焼きついていたんだろうね。それが突然こういうクリエイティブな形でポートレートとして表れたんだと思う」

「でもちょっと早すぎたかな? 10年早かったかもしれない。当時は日本でもあまり評価されなかったもんね。オノ・ヨーコにも言われたもん。『10年早かったね』って(笑)。アルルの写真フェスティバルに招待されて名誉市民賞をもらったのはそれから10年後のことだからね。文化が違うんだな〜、ああいうところで写真やってたらいいな〜って思ったよ。やっぱり環境って大事だよね」
次号の配信は8/30です。少々お待ちくださいね!

写真


柳谷杞一郎の写真上達のための100のルール
こんにちは。
柳谷杞一郎です。
「Photo365MAGAZINE」の読者のために、写真上達のためのヒントを毎回少しずつご紹介しています。まずスタートから18回は、『花写真〜上手になるための18のルール』(雷鳥社)という本で一度書いていたことをおさらいしていきます(Photo365MAGAZINE版オリジナル原稿に手直しした部分もあります)。
今回はその9回目です。
■ Profile ■
柳谷杞一郎(やなぎたにきいちろう)
写真の学校/東京写真学園主宰。
1957年広島県生まれ。広告・出版物の制作ディレクターを経て、88年エスクァイア日本版の月刊化に際し、編集者として参加。90年副編集長。91年にカメラマンに転身。“大人の感性”と“少年の温もり”の混在する写真家として注目を集める。写真集に『Rapa Nui』『X』、著書に「写真でわかる<謎への旅>」シリーズの『イースター島』『マチュピチュ』などがある




「写真の学校」の教科書
はじめて一眼レフを手にする初心者からプロカメラマン目指す上級者まで、写真が大好きな人が通っている写真の学校がつくった「写真の教科書」。作例の写真が豊富に掲載されていて、写真を本気ではじめる人にはうってつけの1冊
雷鳥社/1‚575円(税込み)

東京看板娘(ガール)
東京都内、東京近郊で商売を営む「看板娘」にスポットをあてた写真集。一口に「看板娘」といっても、家の手伝い、老舗の後継ぎ、自分でお店を構えたオーナー……と様々。本書片手に掲載店を周り、「看板娘」を訪ねるのもひとつの楽しみ方。全店舗リスト掲載。
雷鳥社/2‚940円(税込み)
rule9 自分ならではの適正露出

 適正露出がなにかを理解した上で、
 わざとオーバーに撮る、
 わざとアンダーに撮る。
 写真表現に
 大きな変化がもたらされるはずだ。


光の量が足りなければ露出不足(アンダー)となり、光の量が多すぎるとが露出過多(オーバー)である。

アンダーで撮れば、見た目よりも全体的に暗い仕上がりになる。あまりにも光が足らなければ真っ黒な写真になってしまうが、適度にアンダーであれば、空の色も、花の色もやや濃い目に再現される。色のコントラストの強いものを撮る時は、効果的であることが多い。

オーバーで撮ると、その逆のことが起こるわけだ。女性ポートレートはほとんどの場合、ややオーバー目で撮る。白く化粧した肌がより白く見え、小じわやしみなどはどこかに飛んでいってしまう。メイクで強調した、目、口などがくっきりと浮かびあがってくる。そこそこの顔立ちの人ならそれなりに美しく撮れるのである。これは花にも応用可能だ。試してみたい。


-Kiichiro’s Voice-

ポートレート撮影の時は、オーバー、アンダーで撮ることを意識する人も、風景を撮る時はそんなことをすっかり忘れてしまっている人が多い。

吉永小百合さんの撮影を頼まれて、「よし、いぶし銀の女優の年輪をバッチリ写し撮ろう!」などと考えて、少しアンダー目に撮るなんて人はいないだろう。そんなことをしたら、二度と仕事は来ないと考えるのが普通だ。もしかすると吉永さんが「まぁ、この深く刻まれた皺が、私の女優としての年輪を克明に写し出してくれているわ。こんな風に撮られたのは初めて。素敵だわ」なんて言ってくれるかもしれないが、確立はかなり低いだろう。

通常、女性を撮るなら、ばっちりメイクをして少しオーバー目に撮る。お歳をめしている場合は、さらにオーバー目に撮る。写真は一種のインチキである。「まぁ、さすが女優さん、50過ぎても皺ひとつないわ」ということになるのである。

逆に、皺ひとつない三國連太郎さんも、少々気持ち悪いではないか。とまあ、人物撮影ならオーバー、アンダーを意識する人でも風景写真は常に適正露出しか頭にない人が多い。わざとオーバーに撮る、わざとアンダーに撮る。風景写真にも挑戦してみると面白い発見があるはず。写真も冒険が大切なのだ。
花写真〜上手になるための18のルール〜/監修・写真の学校/東京写真学園
写真を上手に撮るために心掛けるべきことは、たった18のルール。まだカメラを持っていない人から中級者まで、読んで楽しい一眼レフカメラ入門の書。
雷鳥社(2002/03)/1‚155円(税込み)




編 集 後 記
社会に対する問題意識を常に持ち続けている坂田さん。NYにいたころヒッピー文化に影響されて、現在もオーガニックフードにこだわっているという。取材の時に出していただいたお茶も、粒子の細かい水を使っていると説明してくれた。健康な心と体、それにあのきれいな肌の秘訣はそこにあるのかもしれない。「Mymemo」に追加。(Hanaoka Mariko)

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