Photo 365 MAGAZINE & DIGITAL PHOTO LABOS
2005.10.03
vol. 61
写真を仕事にしたい人、写真家になりたい人はもちろん、
写真に興味のある人なら誰でも楽しめるメールマガジンです。
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みなさん今日も楽しくお過ごしですか? 
写真を撮ること、観ることが好きな人に、お届けしている雷鳥社メールマガジン「Photo365MAGAZINE&DIGITAL PHOTO LABO」エディターのイタガキです。ロングインタビューでお届けしている写真家・石内都さん。今週がいよいよ最終回となりました。写真を撮ることだけでなく、いろいろなことを経験することも、また写真表現へと繋がっていきます。石内さんからのメッセージ、しっかり受け止めてください。では、今週もお楽しみ!!
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私が写真を撮るワケ
生きているものを愛しむカタチ、それが写真。写真家・石内都インタビューVol.6
全6回でお届けした写真家・石内都さんのロングインタビューもいよいよ今週で最終回です。自身の原点のひとつ、現在はライフワークにもなった“傷”の写真への想い・・。石内さんの表現したいことについて今週も深く迫ります。カメラマンを目指す人々へのメッセージもありますので、最後までお見逃しなく!!
■ Profile ■
石内都(イシウチミヤコ)
1947年群馬県生まれ、横須賀育ち。多摩美術大学の織科中退。1970年代半ばから独学で写真をはじめる。国内外で作品を発表し続け、1979年には『アパートメント』で木村伊兵衛賞を受賞。写真集の刊行はじめ、写真展など精力的に行う日本を代表する写真家である。近年は、自身のライフワークとしても撮り続けている、傷跡の写真、爪、手足などの身体の一部を接写した写真などを作品を発表。本年は、第51回ヴェネチア・ビエンナーレ美術展で日本代表として個展を開くなど、国内外から高い評価を得ている。
『scars』
人の身体に刻まれた傷をテーマに撮り続けられた写真がまとめられた写真集。2005年/4‚410円/蒼穹社




















『薔薇のパルファム』
薔薇が、もっとも匂いたつのは、いつだろう。薔薇をめぐる世界の物語と香りの最新化学をわかりやすく解説。匂いたつような薔薇の写真とともに薔薇の魅力を堪能できる珠玉の書き下ろしエッセイ。文・蓬田勝之 写真:石内都 2004年/1‚680円/求龍堂




















『マザーズ2000-2005―未来の刻印』
「第51回ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館2005」の公式カタログでもある。出品作の『mother's』シリーズのほか、初期三部作、『絶唱・横須賀ストーリー』、『アパート』、『連夜の街』からも収録されている写真集。2005年/2‚415円/淡交社




















『キズアト』
物語として再生する無数の傷跡。写真家により写し取られた傷跡とは紛れもなく写真そのものである。未発表を含む写真56点を収録した写文集。2005年/2‚520円/日本文教出版


傷跡を撮っているけど、傷跡じゃない
石内さんが撮る“傷”。それは、傷を撮っているけど、傷ではない。個人的な“傷”というよりも、もっと普遍的な“傷”。誰の傷でもない“傷”なのだ。

「あなたの傷は私の傷なの」

プリントされた作品としての傷について、撮られた方がどう感じるか、そこまでは関与しない。それが、撮影をする前の約束事だという。撮影は、基本的には横浜のアトリエの2階、北向きの自然光で行う。だから、雨の日と曇りの日の撮影は中止。晴れの日を待つのだ。

「撮影時間は早いですよ。この前も30分で終わりました(笑)。だから、撮影の現場っていうのは、色々考えている暇なく過ぎていくの。撮り終わったら、割とみんなさっぱりしていますね。それよりも、ここに来るまでの過程が、本人にとって一番大変だったんじゃないかな」

「撮った写真は、後から必ずお送りしています。私が感じるものと、相手が感じることが違うのは当たり前で、それは最初から覚悟しています。でも、もちろん私は、自分でいいと思うものを作っています」

「写真、ましてモノクロとういのは、何かこう嘘っぽいんですよね。現実は色彩豊かな世界でモノクロではないし。でも、モノクロ写真の面白さっていうのは、そこだと思うんです。どこか、ソフィスティケイトされたものなんですね。私は、そういう美意識を持ち合わせていると思うので、プリントしたものは絶対にいいという自信を持っています。でも、被写体となった方が、作品としての自分の傷の写真と向き合った後に、それぞれが、現実的な傷のある自分というものをどうやって受けとめて生きるのか。そこからは私は関わらない。私がどうこう言うところではないわけですよね」

「なぜ私がこういう写真を撮っているのか。それは傷跡を撮っているけど、傷跡じゃない、ということを分って欲しいんです。私は、写真集に文字を入れているんですが、それは、勝手なイメージで見て欲しくないからなんです。文字というのは、時には写真以上に強いものを訴えかけますからね。“私はこう思っている”ということをはっきりさせたかったんです。だから、半端な気持ちで見ないでね、っていう感じです。もちろん、そのやり方に反対する人もいましたけどね。写真集とオリジナルプリントは質の違うものですから、これは写真集にかぎっての話です」
死者からしか学べないこと
横須賀をテーマとした初期三部作は好きだけど、「1・9・4・7」以降の一連の作品は好きじゃないという人も少なからずいる。それは、一般的には、“美しい”ものとしては受け入れられていない、時には目を背けたくなるような、隠しておきたい “傷”に、レンズを向けていることに対する嫌悪感なのかもしれない。

「私は割りと、人が立ち止まって見るものではなくて、つい通り過ごしたくなってしまうようなものを撮っているのかもしれません。40歳中年女性の手と足なんて、見たくない人はいっぱいいるんですよ。なんで、こんなものを見ないといけないの?と思う方、怖いという方もいますしね」

「いわゆる一般的な“美しさ”ではないですからね。みんなが傷の写真を美しいなんて思うはずはない。老いと若さ、美と醜というのは、表裏一体。だからといって、若さが美しいなんて、当たり前すぎるから、そんなこと何も私が言う必要がないって思ってしまうんです。じゃあ、老いが美しくないか、といったらそうではない。誰しもそこに至るという時間というプロセスとしては一緒なのよ」

「だって、若さがあるから老いがあるんだから。老いだけということはあり得ないでしょ。人間が生きていくという、ひとつの過程としては同じだと思うの。どっちがいい、悪いなんて、絶対に言えるはずがない」

「結局、なんだかんだいっても、死ですよね。グジュグジュしているのは、生まれてから死ぬまでの間だけ。そう考えると、たかだか人間の一生なんて、なんてことないはずですよね。大切なのは、いったい何を考えて生きていくかですよ」

父や母の死、そして友人たち。石内さんは、これまで様々な“死”に立ち会ってきた。そして、その多くが、死にたくないのに死んでいった人たちだったという。

「私は、死者から多くのことを学んでいるという感じがすごくありますね。本や学術書などで学ぶのではなく、死者からしか学べないことがある。もちろん、生きている人から学ぶこともたくさんあるんだけど、死んでいった人たちというのは、本当に多くのことを教えてくれました」

「父の死は、やはりすごく悲しかった。父は常に私の後ろ盾をして、支えてくれましたから。『これから先、私はどうやって生きていくの?』って…。でも、母の死はもっと悲しかった。想像以上でしたね。自分でもびっくりしました(笑)」

「女同士だってこともあったのかな。でも、もし母とうまくいってたら、あんなに悲しくはなかったかもしれないですね。後悔ももちろんあります。死ぬまで看病もして、色々と面倒は見てきましたが、亡くなってみると、やっぱり悔やんでも悔やみきれないものはあります。当然、これでいいということはない…。でもまあ、いいんじゃないかな、それで。後悔した方が、先があるから(笑)」

「両親が5年くらいの間に続けて亡くなったこともあって、感情面ですごく影響されました。でも、写真を撮る行為というのは、逆にとても冷静なものなんですよ。だから、そのギャップが、すごく面白いんです。最近、やっと写真が面白いなぁって思うようになってきたんです」

では、自身の死については、どうだろう。

「自分が死んだらとか、どうやって死ぬかなんて、考えても仕方ないでしょ。今は考えていません。死はいつも他人ごとなんです。今は、なるべく長く生きたいなぁとは思っていますよ。こうなったら、中途半端には死ねないですからね(笑)」
写真はいつでも返ってくることができる
昔も今も、基本的には何も変わらないという石内さん。これからの表現についても根本的な部分での興味の対象は変わらないという。

「表現は、今までと同じですよ。ただ、もっと自由になってきたと思う。歳とともに、自分への制約がなくなってきた気がする。それは、できることと、できないことが、はっきりしてくるからかな。それが、歳を重ねる面白さかもしれないですね」

「若い時は、何でもできると思っているから、何でもやってしまうでしょ。無駄が多いのよね。今は、無駄があまりない。できることしかやらないから(笑)。できないことは、本当にできないもの。それが正しいと思うんです」

これまで写真を続けてきた中で、一番辛かった時期はいつだったのか。

「それは、初期の3部作が終わってから『1・9・4・7』に至るまでのプロセス。でも、もともと写真家になりたい、という強い思いがあったわけではなかったから…人間関係で落ち込むことはあっても、写真のことで落ち込むことはなかったかな。私の写真は、自分が好きな写真を撮っているだけだから」

広告カメラマンと違い、アーティストとして、オリジナルプリントを売って生活していくことの厳しさ、難しさについて伺った。

「父の会社を辞めたときに、写真で食べていこう!と覚悟を決めたんです。でも覚悟するとね、それはそれなりに、何とかなるものなんですよね。確かに今の日本では、まだ、写真を売ったり買ったりする習慣がないですよね。だから、私だって、結局は海外ですよね。その点では、写真家というよりも、アーティストよりかもしれないですよね」

「写真というのは、技術的な問題でしかない。でも逆に言えば、写真をやっていれば、色々な仕事が来るんですよ。私は向いていないからやめてしまったけど。向き不向きは自分で考えていかないとと思います。やっぱり、表現としての写真、アートとしての写真というのは、よっぽど自分で何かを持っていないと難しいと思います。例え、ある種の恨み辛みであってもね。でないと、表現する必要ないですからね」

「昔は、シリアスフォトグラファーという言い方がありましたね。ようするに、広告フォトグラファーと対極にある、“表現”を追及する人のことで、その境界がはっきりしていたんです。でも、今はホンマタカシさんみたいに、広告をやりながら自分の写真を撮り続ける人が出てきていますよね。その辺は自由でいいと思います」

「ただ、私は両方にエネルギーを注ぐことができないから、それなら自分の持っているエネルギーを、人から頼まれた仕事に使いたくないと思っていて。自分のことで精一杯なんです」

最後に、カメラマンを目指す人々へのメッセージを伺った。

「学生さんや、事務所を訪れるカメラマン志望の若い人の写真を見ることも時々あるんです。若い人の作品についてのコメントというのはできないけど…でも、写真はもっと自由であっていいと思います。どんなものでもいいから撮った方がいい。これが写真だ!というものはないんだから。ただし、あまりに自由すぎて、もとがなくなってしまったら意味がない。その人が撮るとき、その元になるものは一体何なのか、ということだけが問われるの。だから、何を撮ってもいい!」

「写真は、まだまだ歴史を作っているんだから。これからの未来はある。でないと、私だってやってられないからね(笑)」

「若い人にひとつ言えることは、写真だけをやっていてもダメということ。もっと色々なことをやらなきゃ。写真だけをやっていても、つまずくと思う。色んなことを取り込みながら、結果的には写真、という方が面白いと思いますよ。私も学生のころは8mmを撮ったり織物を織ったり…。最近はビデオを撮ることもあるんです。でも、写真はいつでも返ってくることができるんですよね」

石内さん、貴重なお話ありがとうございました。
次回(10/17配信)もお楽しみに。

写真


柳谷杞一郎のデジタル写真をめぐる冒険
こんにちは。柳谷杞一郎です。
デジタル写真表現による特徴の最後は「色領域」についてのお話です。

■ Profile ■
柳谷杞一郎(やなぎたにきいちろう)
写真の学校/東京写真学園校長。
広告・出版物の制作ディレクターを経て、88年エスクァイア日本版の編集者として参加。90年副編集長。91年にカメラマンに転身、注目を集める。写真集に『Rapa Nui』『X』、著書に写真でわかる<謎への旅>シリーズの『イースター島』『マチュピチュ』などがある




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10月25日(火)19:00〜(元代々木校)
光は電磁波の一種で、人間が見ることのできる光のことを可視光線と呼びます。可視光線のすぐ外にある電磁波には、赤外線とか紫外線という名前がつけられています。人間は見ることはできないけれど、他の動物は見えるという光も存在するということです。

では、可視光線のもとで見えている色をそのままなにか別のメディアで表現できるかというと、これはまったくもっと不可能といっていいでしょう。どんなに上手な人が何千色もの絵具を使って絵を描いても自然界にある色を再現することはできません。また、自然界にある色をそのままフィルム上に取り込むことができないということは、写真を撮影している人なら、誰もが実感として理解しているはずです。

一般的にカラー印刷はC(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)、K(クロ、ブラック)のたった4色のインクを使うだけです。

それなのに、あれだけの表現能力があるのですから、素晴らしいともいえますが、自然界の色を忠実に再現することは絶対不可能であることも確かです。

デジタルカメラもこれは同様です。R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)、基本的には光の3原色であるたった3色の色を使って、様々な色を表現するわけですから、立派といえば立派ですが、当然限界もあります。表現できる色の範囲というものがあるのです。その使用できる範囲のことを色領域あるいは色空間と呼びます。

現時点では自然界に存在する色の50%程度までしか再現できないと考えておいていいでしょう。さて、色領域には、いくつかの種類があるのですが、それについては次回お話したいと思います。

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編 集 後 記
いつでも返ってくることができるもの…帰ってくる場所のようなものなんでしょうね。そう言い切れるものがあるっていいですね〜。さて、6回にわたる石内さんのインタビューはいかがでしたか?男性、女性という分け方をしてはいけないかもしれませんが、少なくともこれまでに登場していただいた、二人の女性カメラマンについては、私は男性とは違う何かを感じました。もちろん、いい意味で!さて、次回からもお楽しみに〜!(Hanaoka Mariko)
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